婚活は辞めました

婚活を辞めた人の日記です。

NOZZE vol.1 一の瀬さん【5】 失恋するということ

その日、予定通り一の瀬さんとランチを食べ、一緒にショッピングモールをぶらりと見て周って、駅に向かう途中のカフェでお茶を飲み、夕方前に駅の改札で別れました。

電車に乗ってすぐに、一の瀬さんからメールが届きました。

「今日はありがとうございました。予定が合えば、ぜひまたお会いしたいです。」

また予定とか言ってる…。

お相手によっては、「機会があればまたお会いしましょう」というのは体のよい断り文句だと思いますが、一の瀬さんの場合、そうではなくて、防御線のようなものなのだろうと感じました。

「予定が合えば」と言っておけば、断られても、会う機会がずっと訪れなくても、予定が合わないならしょうがない、と納得できる。

けれど、それではきちんと恋愛できないし、きちんと失恋もできない。

まりもは「予定が合うから会う」のではなくて、「その人に会いたいから時間を作って会う」(恋愛だけでなく友達とかでも)という関係でいたいのです。

特に恋人とは、そうありたい。

現実的には、ただお互い暇だから、どちらかの家でひねもすTV見てだらーっと過ごす…みたいな週末を送ったりもするわけですが。

それでも「あなたに会いたいから会うんだ」と言わないで、「暇だから会おう」と言ってしまうのは、恋愛の土俵に上がっていないじゃないか、と思うのです。

一の瀬さんにとってまりもが、「会いたいから会う」というほどの相手ではなく、「予定が合うから会う」というだけの相手だから、こんな誘い方になっただけであれば、かまわないのですが。

おせっかいな考えですが、一の瀬さんには、まりもの後で出会う誰かに対して、正面から恋愛の土俵に上がって、できれば正面から失恋して欲しいな、と思いました。

こう書くと、まるで一の瀬さんの不幸を祈っているようですが、そういうつもりはないのです。

なんとなく一の瀬さんは、今までに恋愛して、きちんと振られたことがなさそうな気がして。*1

以前、まりもの自己紹介として、ちらっと書いたのですが、まりもが婚活をはじめたきっかけは失恋でした。

まりも自身、鮮明に失恋したのはこのときが初めてでした。

彼氏とぐだぐだになって別れる、なんとなくすれ違って消滅する、10代の頃なら、好きだけどうまく言えないまま会わなくなる…。

そんな曖昧な恋愛の消滅ではなく、はっきり気持ちを伝えたうえでの、誤解の余地もない鮮明な失恋。

このとき、すごく馬鹿みたいな言い方になる、というかたぶん本当に馬鹿なんだけど、まりもは、世界が自分のためのものではないんだと知りました。

初めて実感として3人称を知ったし、初めて他人の気持ちに向き合った、と感じた。

世界の見え方が変わりました。

決して悪く変わったのではなくて、やっとわかった、と思ったのです。

当時すでに30歳を過ぎていました。

きっと、みんなはもっと早く知っていること(たぶん多くの人は失恋しなくても知っているのでしょうが)をやっと知れた、自分はずっと子どもだった、と感じたのでした。

 

なお、もちろん一の瀬さんとは、二度目にお会いすることはありませんでした。 

*1:もしこれがまりもの勘違いで、今までに何度も女性に正面からアプローチして振られて、臆病になった結果があの姿だったのなら、もう失恋しなくていいです。どうかこれ以上失恋しないで、誰かと幸せになって欲しいです。